みなさんはケトン食って知ってますか?
ケトン食は糖質 (ご飯やパン) を控えて脂質を増やすことによって
体内でケトン体というものが生成される状態にする食事法です。
日本ではあまり普及していませんが、欧米や韓国では難治性てんかんの治療法の一つとして確立しています。 [参考 : 日本小児神経学会]
そんなケトン食について紹介しつつ、2024年にScience Advanceに掲載された
“Ketogenic diet induces p53-dependent cellular senescence in multiple organs“
(ケトン食はp53依存性の細胞老化を複数の臓器で引き起こす)
という題の論文を紹介していきたいと思います!
※この記事は、調べたことをまとめ、みなさんに論文を読む面白さを共有することが目的です!個人の見解と一つの論文についての記事です!
ケトン食とはなんなのか?
簡単に説明はしましたが、「ケトン食ってなんだ??」って思いますよね
ケトン食の目的、それは
「ケトーシスを引き起こすこと」
です。

ん?ケトーシスってなんだ?。
て感じですよね。私も「は?」ってなりました。
ケトーシスとは「血中にケトン体が放出された状態」です。
「んーなるほど、じゃあケトン体ってなんだ?」って思いますよね
ケトンとは有機化学をやっていた人はよく知っていると思いますが
- アセトン
- アセト酢酸
- β-ヒドロキシ酪酸
をここでは指します。

???
そうなりますよね、、
なのでここでは
体を動かすエネルギー
と覚えておいてください!
ここまでのまとめ
ケトン食の目的=ケトーシス状態にする
ケトン=体を動かすエネルギー
体を動かすエネルギー源?
体を動かすエネルギー源ってブドウ糖じゃない?って思ったあなた!
さすがです!ここがケトン食の一番大事な点です。
ケトン体はブドウ糖のかわりに使われるエネルギー源なんです!!
へーそうなんだ。ってなりますよね。けどこれがケトン食の本質なんです。
人間はブドウ糖に頼って基本的には生きています。
けど、お腹が空いて手に力が入らない時ありますよね?そんな風に一つのエネルギー源に依存するのは良くないんですよね。
なので他のエネルギー源として使われるのがケトン体なんです!

うんうん、わかった。で、どこでできんのそれ??
これが面白いんですよーー。ケトン体は脂肪を燃焼することでできるんです。
つまり、勝手に脂肪が燃えていくんですよね。なのでダイエット効果があります。
また他にも
- 脳のエネルギー源としてより優れる=集中力アップ
→ブドウ糖よりも長時間安定して供給できるため、脳が冴える - てんかんの治療
→脳にブドウ糖が届かないことでてんかんは起きる。代わりにケトンを供給できれば発作が起きない - 血糖値が上昇しない=インスリンも安定する→糖尿病予防につながる
といったことが知られています。
また論文では、マウスの寿命が延長されたり、がんへの治療効果があることも報告されています。
すごいですね、ケトン食。これからはこれで生きていったほうがいいかなって感じますねーー
じゃあ、ブドウ糖になんて頼らずケトン体で動けば良くない?
その通り。私もそう思いました。でも、これって
現代に生きる私たちだから言えることなんですよね。
本当はケトンをエネルギー源にすることは
“緊急モード”の機能なんです。
つまり、ブドウ糖が足りない時だけ発動する「非常用バッテリー」なんです。
(参考 : https://www.kanro.co.jp/sweeten/detail/id=2841)
食料が手に入らない飢餓の時代、人間の体は脂肪をエネルギーとして活用することでなんとか生き延びてきました。
そのときに登場するのが、脂肪から作られるケトン体です。
つまり、ケトン体は「脂肪を蓄え、必要になったら燃やして使う」ためのしくみ。
食料がいつ手に入るかわからない環境では、この戦略がとても理にかなっていたわけです。
でも、人類が安定的に食料を手に入れられるようになったのは、実はごく最近の話。
進化はものすごーーーくゆっくり起きることなので
体はまだ「ブドウ糖優先、ケトン体は緊急時用」って設定のままなんですね。
(何千年後には、常時ケトン体で生きる新人類が誕生してるかもしれませんけどね…!)
しかも、それだけではないんです。ちゃんとケトン食によって引き起こされるよくない点もあるんです。
緊急用のシステムを日常的にずっと使ってたらどこかでガタがきますよね
それが今回紹介したい論文
“Ketogenic diet induces p53-dependent cellular senescence in multiple organs”
“(ケトン食はp53依存性の細胞老化を複数の臓器で引き起こす)“
の内容です!
ケトン食はp53依存性の細胞老化を複数の臓器で引き起こす
ケトン食は老化を誘導する?
まーまず、論文の題名をもう一回読みましょう
「ケトン食はp53依存性の細胞老化を複数の臓器で引き起こす」
この論文の題名を見て「細胞老化」ってとても怖く聞こえますね。
え、ケトン食って良くないじゃん、年取るの??って思いますね。
そんなことないですよーと言うとこですが、論文の題名は言いたいことそのまま書いてあります。
なのでケトン食は細胞老化を誘導します!
という結論になります。けど大丈夫、この論文の筆者はとても優しいのでちゃんと解決方法も考えてくれてます。(そんなこと調べない研究もあります。)
では最初にどうやってケトン食が細胞老化をするということを証明したかを解説していきます!
細胞老化って何?
細胞老化って言葉を聞いたことない人も多いかなと思います。
なので今、
え、ケトン食食べたら老けて死んじゃう?
と思っている人もいるかな。
細胞老化=細胞が引退すること
細胞老化とは、細胞がもうこれ以上分裂できなくなって、現場から引退することです。
細胞はふつう、分裂して新しい細胞を作ってくれます。例えば、怪我しても治るのはそこの細胞が頑張って分裂して増えているからです。爪が伸びるのとかもそうですね。
でもあるとき、ストレスやダメージが溜まって、
もう限界です!これ以上増えられません。現役引退します
って細胞が言い出すんですよね
この引退した細胞こそが、老化細胞(senescent cell)と呼ばれるものです。
こいつがとても厄介なんですよね。本当に怖いんですこいつ
年取って引退したら人間だったらの余生を過ごしますよね。
でもこいつらは違うんですよ!

俺はもう働かないから、お前らもやる気なくせ!!!
みたいに周りで働いている奴らに対して影響を出すんですよね。
その結果、周囲の健康な細胞にまで悪影響が広がってしまうんですよ
(本当にSASPっていう物質を細胞の外に出してやる気を失わせています。)
厄介ですねーーこいつ。
老化細胞が増えると、何が起きる?
老化細胞が増えると何が起きるか、それがよくイメージする
老化
なんですね。
つまり、細胞老化 (の蓄積) が、体の老化の引き金になる。
まーなのでケトン食を食べたら老けちゃうというのは間違ってはないです。
しかも今回の論文がそれが複数の臓器 (心臓、腎臓、肝臓、脳) で起きるって言ってる。
おーケトン食って怖いーー
となるわけですね。
ですが、これは論文の前半の内容です。
まだここから挽回のチャンスがあります!!
(すごく簡単に書きましたが、この細胞老化の証明のためにマウス実験、臓器の解析、遺伝子の検出などなどめちゃくちゃ丁寧に実験され証明されています。簡単に証明されたわけではないですよ。細胞老化しているという発見だけでなく、なぜ細胞老化しているのかという疑問にも答えるのが研究で論文です。)
論文後半戦!!
でもケトン食がしたい!!
ですよね、そうですよね。だって集中力も上がるし、脂肪燃焼できるし。
だから、細胞老化なくケトン食をしたい!!となるわけですよ
筆者も細胞の老化なく、ケトン食を続ける方法を探してくれました。
そして!
なんと…!
ケトン食によって誘導された細胞老化は可逆的です!
ということを発見しました!!
うおおーー!!??おお??
これだけで理解できましたか?
解説をしますと
実は、ケトン食をどれだけ連続で続けたかによって細胞老化の程度が変わることが分かりました。
つまり、
ケトン食を長く続ければ続けるほど、細胞老化は進む
ん?なら逆に辞めれば戻るんじゃね?と筆者らは考えたんですよね。
そして本当にそうだったんです!
論文ではケトン食をやめて3週間経てばほぼ細胞老化がなくなっていることが示されています!
なので、
ケトン食を食べ続けて細胞老化しても、辞めれば元に戻る
ということです。
あーよかったーー。
でも、聡明なあなたならここでこう思いません?
「そしたらケトン食の意味なくね??」
そーなんですよね。その通りです。参りました。
ここで、諦めないのが研究者
筆者らは、ここでまた考えました。
- 細胞老化はケトン食の期間による
- ケトン食による細胞老化はケトン食を辞めれば戻る
じゃあ…
間隔あげながらケトン食をとってからしばらく間を開ければいいのでは?
と思いついたのです。
どういうことかと言いますと、ケトン食を短い期間行い、その間に起きた細胞老化をなくしてからもう一度ケトン食を再開するということですね。
この予想は見事的中しました!本当に間隔をあけると細胞老化を抑えることができたんですね!
論文ではマウスにおいて
4日間ケトン食を行いその後普通の食事を7日間行う
という方法で細胞老化を回避することができました。
なので、
「間隔を空けてケトン食を食べれば、細胞老化を起こさずにケトン食の効果を得ることができる」
というのが筆者らの結論でした!!!
なので、気をつけながらケトン食を行う分には問題はありません。よかったーーー!
論文のまとめ
- ケトン食はケトン体を生成するケトーシスという状態にするために行う
- ケトン体はブドウ糖に変わるエネルギー源で様々なメリットがある
- けど、ずっとケトン食をするのには細胞老化というリスクがある
- でも、ケトン食を辞めれば戻る
- そして、間隔を空けながらケトン食を行えば細胞老化は予防できる
という論文だったんですねーー。
うんとても面白い論文でしたね!
最後に
ここまで読んでいただいた皆さん本当にありがとうございます。いかがだったでしょうか
なるべく皆さんにわかるように心がけたつもりです。
本当はp53ってなんぞやってところもやりたいんですが、気が向いたらにします!
(かなり長くなるので)
この記事にまとめた論文の内容は本当にすこーーしだけです。
本当はもっとたくさんの実験をしています。
そして論文には載っていない多くの失敗がありこの論文ができています。
そんな、論文をこんな形で紹介して申し訳ないなと思っています。
しかし、論文を読む面白さ、ちゃんとした研究者ってすごいんだぞ!
というのを少しでも共有できたらなと思っています。
あと、あくまでこんな結果になったよっという報告です。自分でも調べて、自己責任でケトン食を行うかなどは決めてください。完全にこの論文について納得はしていないですし、完全に納得させることができる論文なんてほとんどないんじゃないかなと思います。
繰り返しますが、みなさんに論文を読む面白さを共有することが目的です。
この目標が少しでも達成できていれば嬉しいです!
読んでいただきありがとうございました!
とことこらいふ
参考文献
“Ketogenic diet induces p53-dependent cellular senescence in multiple organs”Sci. Adv., 10, eado1463. (2024)
日本小児神経学会 HP
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